デンケン

エレクトロニクス事業部

「設計から解析まで一貫対応、半導体開発を総合サポートする専門家集団 ~デンケンの強みとは~」上野事業部長インタビュー

電子機器の心臓部である半導体。その設計から製造、評価、解析までを一貫して手がける企業は、日本国内でも数少ない存在です。
そこで今回は、半導体のトータルソリューションを提供する株式会社デンケン エレクトロニクス事業部の上野事業部長に、半導体業界の動向と同社の強み、そして2025年6月に稼働を開始した最新設備「TEM/FIB」について話を聞きました。

エレクトロニクス事業部があるデンケン守江工場



半導体の設計から解析まで、200名体制で提供するトータルソリューション

――まず、デンケン エレクトロニクス事業部の事業内容について教えてください。
上野裕喜 事業部長(以下上野): エレクトロニクス事業部は、名前の通り電子関係全般を扱っていますが、特に半導体分野に強みを持っています。
具体的にはLSI(Large Scale Integration=大規模集積回路)の設計から始まり、設計したICやLSIを電子部品の形にしていくモジュール化やパッケージングまでを手がけています。
以前は一つのパッケージを組み立てる「アセンブリ」という後工程を中心に取り組んでいましたが、現在はさらに多くの機能を高密度に詰め込むモジュール化の開発から製造まで行うようになりました。
最近はいろいろな機能を製品に詰め込んで多機能化を図るようなご依頼が増えています。


――事業部の組織構成はどのようになっていますか?
上野: 「モノづくり」「評価」「解析」という3部門で構成されています。まず「モノづくり」の領域として、設計から開発、後工程のパッケージングを担当する部門。
次に「評価」部門は、できた部品の耐久性を試験・評価を行います。3つめの「解析」部門は、故障解析をはじめとする様々な解析を行っています。
そして、事業部の中でのモノづくりの拠点が大分県杵築市の守江工場にあります。ここでは前工程で作られたウエハーを切り出し、電子部品の形にする後工程を担当しています。
ウエハー加工から検査まで、後工程のすべてをカバーできるのが特徴です。現在、事業部全体約200名体制で、半導体の設計開発、製造、評価、解析までの全工程に対応しています。
デンケンが提供する半導体ソリューションについて話す上野事業部長


「製造」「評価」「解析」を一社で完結できる強み

――エレクトロニクス事業部の強みは何でしょうか?
上野: 私たちの強みは、モノづくりの領域だけでなく、評価、解析という様々な機能をトータルソリューションとしてお客様に提供できることです。
この業界では、半導体を作る会社は作るだけ、評価の会社は評価だけ、解析の会社は解析だけというように、それぞれの専門分野に特化した会社が多いです。
私たちのように「製造」「評価」「解析」の各機能を持っている会社はそんなに多くないので、この点が当社の最大の強みとなっています。
具体的には、例えば「ICのトラブル発生時の解析」というご依頼に対して、解析結果をレポートにまとめて納品するだけでなく、トラブルの原因が何かをフィードバックすることは案外難しいものです。
その点、当社にはモノづくりの知見と現場があり、信頼性試験ができる環境も社内に持っていることで、お客様に対してより的確なアドバイスができます。
逆にモノづくりの側から見た場合も、何か問題があったときに社内ですぐ解析ができることは大きな利点になっています。
一般的に評価や解析を依頼する場合、見積や納期、設備の空き状況などが問題になりがちですが、当社の場合は社内にあるからすぐに対応できる。これはお客様にとっても大きなメリットになっていると思います。


大型設備投資で半導体の微細化に対応

――最近、大きな設備投資をされたと伺いました。
上野: はい、解析用の設備として透過型電子顕微鏡(TEM)を導入しました。4億円超という大きな設備投資で、2025年6月から稼働を開始しています。

――TEMとは、どんな設備なのでしょうか。
上野: TEMは観察したい部分を拡大して測長したりする電子顕微鏡で、原子レベルで構造解析をすることができます。原子レベルで観察することで、原子の並びや欠陥までを詳細に見ることができます。
半導体業界では今、プロセスの微細化が進んでいて、数ナノメートルレベルのトランジスタを各社が開発中です。微細になればなるほど、その部分を拡大して鮮明に見える顕微鏡が必要になるということです。

――なぜこのタイミングでTEMの導入を決めたのですか?
上野: 半導体の微細化による観察ニーズにタイムリーに対応するためです。プロセスが微細になればなるほどウエハーの製造コストは上がり、歩留まりは下がります。
つまり1個あたりの製品が割高になってしまう。各社、高い製造コストをかけて作ったウエハーから、1個でも多く良品を取りたいはずです。
そのためには、歩留まり低下につながる欠陥を発見・観察してフィードバックし、対処していく必要があります。実際には半導体メーカーのお客様からこのような強いニーズを伺い、ご要望に応える形で導入を決めました。

――TEMと一緒に導入された装置についても教えてください。
上野: FIB(集束イオンビーム)という装置も同時に導入しました。これはTEMで観察するための試料作成を行う装置です。
TEM観察では、電子線を透過させるぐらい薄く、具体的には厚さ100ナノメートル、幅8マイクロメートルという極めて薄く小さい試料を作成する必要があります。人間の目にはとても見えないレベルの小ささです。
そこでFIBも導入して、試料作成から顕微鏡による観察までを一貫して対応できるようにしました。
また、両装置とも自動加工・観察ができますので、同じような試料の実績がある場合には、事前に作成したレシピをもとに自動加工すれば観察までの時間も短縮できます。


TEMによる観察事例。配線や層間膜を含むFinFETの断面構造



モジュール化、解析、評価の3分野に注力

――では、最近注力している分野について教えてください。
上野: 大きく3つの方向性があります。
1つ目は実装の分野で、モジュール化や高密度実装、3D実装と呼ばれる技術です。従来のリードフレームタイプは平面的な1層の配線でしたが、多層基板やBGA(Ball Grid Array)のような構造なら立体的に多くの機能を詰め込むことができます。
さまざまな機能を一つのパッケージに詰め込む技術が半導体業界のトレンドですが、このモジュール化の技術や知見を活かすことで、引き合いが多い状況が続いています。来期に向けて、更なるアセンブリの設備投資も計画しています。
2つ目は解析分野で、先ほどご紹介したTEMやFIBを活用していきます。3つ目は評価分野の強化です。守江工場(大分県杵築市)にあるパワーサイクル試験などの信頼性評価に加えて、愛知県刈谷市にある中部センターにEMC関連の試験環境も持っているので、車載部品の分野を中心に試験環境を強化していきたいと思います。

小ロットから独自IC開発ニーズに対応

――最近のお客様のニーズに変化はありますか?
上野: 最近は自社商品に搭載するICをオリジナル仕様で作ってほしいというお客様が増えています。
今はさまざまな製品に半導体部品が搭載されていますので、例えば処理の高速化や軽量化などで製品の差別化を図ろうとした場合に「この機能を強化するためにこういうICが必要」というニーズが出てきます。
このようなケースは、半導体の設計開発から製造、評価、解析までを一貫して手がける我々が得意としている分野です。
「100台しか作らないけど特定の機能が欲しい」といった少量ニーズにも応えられますし、前工程ではウエハー1枚に複数種類のICを作る「相乗り」のようなサービスもありますので、半導体に関わる企画のコーディネーターとして当社の知見とネットワークをご活用いただければと思っています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
上野: 冒頭で「モノづくりの領域だけでなく、評価、解析という様々な機能をトータルソリューションとしてお客様に提供できることが強み」と申し上げましたが、各部門がお互いをサポートしながら成り立っている点も大きいと思います。この恵まれた環境を活かして、皆さまの役に立っていきたいと思っています。
特にオリジナルの半導体を作りたいというニーズは今後も増えていくでしょう。設計して物を作って評価して、何かあったら解析する。この一連の流れを1社で全てコントロールできる会社は多くありません。この強みを活かして、お客様の製品開発の支援を協力にサポートしていきたいと思います。
――ありがとうございました。

まとめ

今回のインタビューで、デンケン エレクトロニクス事業部が提供する「半導体のトータルソリューション」の価値が明確になりました。
40年以上にわたって半導体業界で培ってきた知見と、TEM・FIBなど業界トレンドを先取りする設備投資。
この2つを武器に、設計から製造、評価、解析まで一貫して対応できる体制により、問題解決のスピードと精度を飛躍的に高めています。
大手メーカーだけでなく「100台の小ロットでも独自ICを開発したい」というニーズにも柔軟に対応できる点もポイントです。
半導体の微細化が進む中、200名の専門家集団がワンストップで支援する体制は、半導体メーカーにとっても、製品メーカーにとっても心強いパートナーとなるでしょう。
「各部門がお互いをサポートしながら成り立っている」という上野事業部長の言葉通り、デンケン エレクトロニクス事業部は、日本のものづくりを支える縁の下の力持ちとして、これからも進化を続けていきます。


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取材協力
株式会社デンケン
エレクトロニクス事業部 事業部長 執行役員
上野 裕喜
2003年にデンケンに入社し、現在で23年目。入社以来、後工程の業務全般に携わり、半導体や基板の設計開発を中心に評価・解析の知識も幅広く習得してきた。
2023年4月よりエレクトロニクス事業部の事業部長兼執行役員に就任し、約200名の組織を率いる。

 

この記事を書いた人
ものづくりライター 新開 潤子
製造業専門で執筆活動を行う「ものづくりライター」。ものづくりについて広く知識を持ち、ものづくり技術を言葉で表現して伝える活動を、愛知県を拠点に展開中。
https://office-kiitos.biz/
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