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パワーサイクル試験とは?グリーンエネルギー時代に求められる信頼性評価の重要性

世界的な電気自動車の普及に代表される再生可能エネルギーの活用が高まる昨今、その心臓部の構成部品であるパワーデバイスの信頼性評価の重要性が高まっています。パワーデバイスは高電圧・大電流を扱い、動作時の発熱と厳しい使用環境により大きなストレスを受けるため、過酷な環境下でも安定して動作することが求められます。そこでパワーデバイスの市場投入前に必要不可欠とされる試験のひとつが「パワーサイクル試験」です。

株式会社デンケンのエレクトロニクス事業部では、業界トップクラスの最大3600A対応のパワーサイクル試験装置を導入し、次世代パワーデバイスの信頼性評価に取り組んでいます。今回は同事業部の評価技術部門を担当する河野課長への取材をもとに、パワーサイクル試験の重要性とデンケンの技術力について詳しくレポートします。

【この記事でわかること】
・パワーサイクル試験とパワーデバイスの基礎知識
・なぜパワーサイクル試験が重要なのか
・デンケンの強み:最大3600アンペア対応と複数台体制
・AEC-Q101規格対応によるメリット

パワーサイクル試験の基礎知識

・パワーサイクル試験とは?
パワーサイクル試験は、パワーデバイスの信頼性評価試験の一つです。具体的には、パワーデバイスを実際に動作させて自己発熱させ、その後冷却するというサイクルを繰り返し行うことで、実際の使用環境での耐久性を評価します。

・車や家電のモータを動かす半導体「パワーデバイス」が対象
では、パワーサイクル試験の対象となる「パワーデバイス」とは、何を指すのでしょうか? パワーデバイスは別名「パワー半導体」とも呼ばれ、電力の制御や変換を行う半導体の総称です。高電圧・大電流を扱うことができ、実際に物を動かす目的で使用されます。具体的な用途としては、電気自動車のモータを動かすためのインバータ(直流を交流に変換する装置)や、家電製品のコンバータ(電圧を変換する装置)などが挙げられます。

パワーデバイスの最大の利点は省エネです。以前は抵抗による制御が主流でしたが、現在は半導体で周波数・電圧・電流などを全て制御できるようになり、大幅なエネルギーロス削減を実現しています。

・過酷な環境での正常動作が求められる理由
パワーサイクル試験が求められる背景には、パワーデバイスの極めて過酷な使用環境があります。特に自動車や鉄道などの輸送機器に搭載する部品では、例えば夏は40度に近い高温から冬はマイナス30度という極端な温度変化や、熱帯地域の高温多湿環境下など、どんな環境でも正常に動作し続けることが求められます。そこで、実際の使用環境に近い条件でパワーサイクル試験を実施し、評価する必要があるということです。

デバイスの耐久性を調べるパワーサイクル試験

・デバイスの自己発熱/冷却を繰り返す
パワーサイクル試験の最大の特徴は、パワーデバイスを発熱させることです。一般のメモリやマイコンの信頼性試験では、製品の周りの環境温度や湿度を変える「環境試験」が主流です。その点、大電流・高電圧を扱うパワーデバイスではデバイス自体が発熱するため、実際に使われる状態に近い耐久試験が必要となります。

「例えば電気自動車のモータが実際に使用される場面では、常に発進したり止まったりを繰り返しますので、その状況を模して実際にデバイスの発熱/冷却を繰り返す試験を実施していきます」(河野課長)

・パワーデバイスでは高温が材料疲労とクラック発生の原因に
パワーサイクル試験で調べるのは、主にデバイスの耐久性です。というのも、試験対象であるパワーデバイスの特徴の一つが「発熱」。デバイスにエネルギーを与えれば与えるほど熱が発生し、ほぼすべてのエネルギーが熱に変わっていきます。そのため常に冷やし続ける必要があり、最新のデバイスでも200度程度に抑える工夫がなされています。

さて、実際の使用環境で温度の高低を繰り返すと、材料が疲労して疲労破壊が進行していきます。特にデバイスの接合部分にクラックが入ると熱が逃げにくくなり、熱抵抗が悪化して温度がどんどん上昇して最終的には壊れてしまいます。

そこでパワーサイクル試験では次の3点をモニタリング・測定して劣化の状況を確認し、「デバイスがどこまで耐えられるか」「最終的にどのように故障するか」などについて客観的な評価を行います。

[パワーサイクル試験の主な測定項目]
・ジャンクション温度:
デバイスの温度特性を利用して、試験中の温度変化を観察します。
過渡熱抵抗:構造関数を求めることで、放熱経路の劣化を診断します。


・パワーサイクル試験の活用シーン
パワーサイクル試験は、主にパワーデバイスの開発段階、性能確認という2つのフェーズで活用されています。

開発段階では、デバイスの温度上昇の仕方や壊れ方を詳しく分析し、その結果を次の設計開発にフィードバックします。実際の使用環境に近い条件で試験を実施することで、より信頼性の高い製品開発につなげることができます。また、製品の実力を把握したい場合には、デバイスが壊れるまで試験を継続して限界値を確認することもあります。

一方、製品の性能確認段階では、各種規格に準拠した試験を行い、規格で定められた基準を満たしているかを確認します。この段階では、出来上がった製品が市場で問題なく動作することを保証するための信頼性試験として実施されます。

3600A×複数台体制で大電流パワーデバイスに対応

3600A対応で大電流ニーズにいち早く対応
さて、株式会社デンケンの最大の強みは、業界最大級の3600A対応と複数台体制による圧倒的な処理能力です。

一般的なパワーサイクル試験装置は1800A~2400Aまでの対応が標準的で、業界標準であるシーメンス(株)のテスター装置も2400Aが主流です。その点デンケンではカスタマイズした3600A対応の装置を導入し、大電流ニーズに対応しています。なお、この3600A対応装置については、日本国内ではデンケンを含む2社しか保有していません。

「電気自動車の大電流化がどんどん高まっていく中で、大電流の試験ニーズも高まっています。従来の2400Aでは対応できないケースが増えているため、3600A対応がデンケンの強みとなっています」(河野課長)


・最大電流: 3600 A (600 A×6)、チャンネル数: 24 ch (6×4)のシーメンス社製パワーテスター

・複数台体制で迅速な試験対応を実現
また、3600Aのパワーテスターは600A×6チャンネルで運用しており、2025年9月現在、3600A対応×2台、1800A対応×1台の3台体制を構築しています。これにより、お客様にとって

処理能力の向上:一度に複数サンプルの同時試験が可能
納期短縮:   従来1ヶ月程度かかっていた試験が最短1週間で完了
柔軟な対応:  他の試験場で空き待ちが発生する状況でも迅速対応
というメリットを実現しています。

「テスター装置を複数台持っていることで、一度にたくさんの試験を同時進行できます。お客様からは特に納期対応の面で高く評価されています」(河野課長)

・AEC-Q101をはじめとする車載向け規格に完全対応
デンケンでは、自動車業界で重要視されるAEC-Q101規格をはじめ、各種規格に完全対応しています。

[株式会社デンケン エレクトロニクス事業部で試験対応可能な主な規格]
AQG324
AEC-Q101
JEDEC
IEC

※デンケンで対応可能な信頼性/製品認定試験についてはこちらをご参照下さい

・まとめ:業界最大級の試験能力でパワーデバイスの未来を支えるデンケン
パワーサイクル試験は大電流化するパワーデバイスの開発において必要不可欠な評価技術です。大分県杵築市にあるデンケン エレクトロニクス事業部では、業界最大級の3600A対応と複数台体制により、次世代パワーデバイスの信頼性評価においてお客様にとっての価値を提供しています。

【デンケン エレクトロニクス事業部のパワーサイクル試験の強み】
・最大3600アンペアの大電流対応(業界標準2400アンペアを大幅に超越)
・複数台体制による迅速対応(従来比最大75%の時間短縮を実現)
・AEC-Q101をはじめとする各種規格への完全対応

 

電気自動車市場の拡大とともに、パワーデバイスの信頼性要求も厳格化が進んでいます。デンケンは40年来の半導体とのかかわりで培った技術と最新設備でお客様の製品開発を力強くサポートしてまいります。パワーデバイスのパワーサイクル試験や、AEC-Q101、AQG324、JEDEC等の規格対応に関するご相談やお問い合わせは、デンケン エレクトロニクス事業部までお気軽にご連絡ください。

お問い合わせ先 株式会社デンケン エレクトロニクス事業部
お問い合わせフォームよりご連絡ください

取材協力
株式会社デンケン
エレクトロニクス事業部 評価解析部
河野 賢哉
半導体部品の評価・信頼性試験・解析業務を担当。
特に電気特性評価と信頼性評価を専門とし、
パワーデバイスの信頼性試験において豊富な経験を持つ。

 

この記事を書いた人
ものづくりライター 新開 潤子
製造業専門で執筆活動を行う「ものづくりライター」。ものづくりについて広く知識を持ち、ものづくり技術を言葉で表現して伝える活動を、愛知県を拠点に展開中。
https://office-kiitos.biz/

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